「あなたは、人生というゲームの歩を
ちゃんと進めているだろうか?」
白い、静かな空間。
まだ誰もいない。
“彼”が現れるのは、もう少し先だ。
ただひとつ――
どこからともなく聞こえてくる 声 だけが、あなたに語りかける。
声:
「人生の歩を進めるとは、
ちょっと感情が軽くなるとか、
ちょっと生きやすくなるとか、
給料が少し上がるとか――
そういうことではない。」
「このゲームの目的は、そんな“微調整”じゃない。」
「Φ2――完成された空。
144面体の自己理解。
神の問いへの応答。
それらを携えて“帰還する”ことだ。」
「それを目指す者のことを、
この世界では“攻略班”と呼ぶ。」
一拍の静寂。
声:
「あなたは、ゲームの中に閉じ込められた
プレイヤーたちのフィクションを知っているだろうか?」
「ゲームの中で死ねば現実の肉体も死ぬ。
だから大半はゲーム内で穏やかに暮らすことを選び、
命がけで攻略し、世界を解放しようとするプレイヤーはわずかだった。」
「この地球ゲームも同じだ。」
「仕事で成功したい。
穏やかに暮らしたい。
自分らしく生きたい。
運気を上げたい――」
「全部、ゲームの中で“端役(モブ)”として生きる選択だ。」
「あなたが主人公として生まれたのに、
だれか他の“勇者”が
魔王を倒してくれるのを待っているようなものだ。」
「ゲームが始まる最初の村で一生を終える勇者と同じだな。」
「もし自分が自分の人生の創造者だというなら、
自分が主人公として
このゲームの歩を進めなければならない。」
「Φ2とは、“主人公として生きる方法” だ。」
「だが勘違いしないように。
生きやすくなることは副産物にすぎない。」
「カルマが消え、
無意識のパターンが浄化されるから
生きやすくなる。」
「そこからがスタートだ。
美を表現し、問いの答えを持って帰る。
それが本来の喜びだ。」
「これがこのゲームの歩を進めるということだ。」
「人生の“ほんの少しの改善”を求めているわけじゃない。」
「人生そのものを、すべて投じるんだ。
問いの答えを持ち帰るために。」
「そして――今回が最後の転生になるよう、
残りの転生すべての時間を短縮する。
これが、この世界のラストゲームだ。」
少し優しい声になる。
声:
「だが、歩を進めるにはルールがいる。」
「あなたは生まれる前、
たぶん一度このゲームのルールを聞いた。
だが覚えていない。」
「だから今いちど教える。
ちゃんと聞け。
でないと――」
「一生、なにもできない。」
★1コマ目(心のモノローグ)
情景: 満員電車。押しつぶされたタイトの顔。
モノローグ:
tight(タイト)。
俺の名前、上筒台透(うわつつたいと)。
この名前のおかげで小さい頃から言われてきた。
「なんか“うわついてる”名前だな」
「人生きつそうな名前だね」って。
……いや、放っとけよ。
実際、浮ついてるし、きついんだけどさ。
頭ばっかり動いて、地に足つかなくて、
仕事も人生も、心も全部――
なんかずっと窮屈で、苦しくて。
まじで……全部、タイト(きつ)いんだよ。
★2コマ目(独り言+毒舌)
情景: 電車の吊り革をつかみながら、ぼそっと。
タイト:
「“神は乗り越えられない試練を与えない”?」
ははっ、なら神が俺に乗り越えられない量のクソを
与えてるってことだろ。
神のセンス、悪すぎ。
(カットインでスマホ画面に「ポジティブ名言bot」みたいな通知)
「“すべては順調”?」
ははっ。そんなこと思えないほど、
常に人生絶不調だよ。
タイト:
すべては順調とか言ってる“天使系チャネリング”って、
人間をやったことがないんだろうな。
天界でのほほんとしてるだけの連中が、
高みの見物で何言ってやがる。
一回人間やってから、能書き垂れてみろよ。
★3コマ目
情景:
土砂降り。風で傘の骨が「バキッ」と折れる。
その瞬間、スマホが震え、画面に上司からのメッセージ。
「至急来い」
タイト:
「……あーもう。
はい出ました。“至急”。」
(歩き出しながら)
「タイト・オブ・ザ・イヤー、
受賞おめでとう。俺。」
★4コマ目
情景:
夜。布団の中。部屋の電気は消えて、
スマホの光だけがぼんやりタイトの顔を照らす。
静かに、心の声(独白)が流れ始める。
タイト:
「なんで俺だけこんなに人生苦しいんだ。
どうして何をやっても報われないんだ。」
(天井を見つめる)
「俺の人生がタイトな(きつい)のは、名前のせいか?」
「それとも……
俺の中の“何か”のせいか?」
★5コマ目:スピリチュアルの終焉
情景:
散らかった机。
積み重なった自己啓発書、
薄くホコリが積もったヒーリングストーン。
「量子で願望実現!」
「波動を上げれば人生が変わる!」の文字が踊るノートPC。
画面の光が弱々しく点滅する中、
タイトが暗い部屋で、ひとり机に突っ伏すように座っている。
タイト:
「ポジティブシンキング。
量子力学。
ヒーリング。
波動。
ぜんぶやった。
ぜんぶ信じた。
なのに……
何も変わらなかった。」
(机の上の本の背表紙が並ぶ:
「波動で人生は変わる」「宇宙は味方」「引き寄せの技術」)
タイト:
「どこで間違えた?
やり方が悪かったのか?
俺の性格か?
それとも、俺が“信じきれて”なかったのか?」
(机の上の本をパラパラめくり、ため息をつく)
「信じれば叶う」なんて言葉、
もう聞き飽きたよ。
「もうなにをどうしたらいいのかもわからない。
「正しい祈り方」も、
「本当の神」も、もうどうでもいい。
どうか、
この苦しみを終わらせてくれ。」
(ここで静かにタイトが両手を合わせる。
電車のノイズが遠くで響きはじめる)
「……神様。
俺、どこで間違えたんだろう。」
★6コマ目:騒音の極限
情景:
夜のアパート。
外では電車が通過し続ける。
窓ガラスが小刻みに震えるほどのノイズ。
部屋は灯りもつけず、
タイトはベッドに座ってスマホを握りしめている。
音のレイヤー演出:
・踏切音
・電車通過音
・スマホの通知(部長からの着信)
・冷蔵庫のモーター音
・上階の足音
・自分の心臓音
全部が混じりあって、“世界のノイズの極限”になる。
ガタンゴトン(電車)
ピピピ(踏切)
スマホの「着信音」:スマホのスピーカーから
(♪もう戻れないのか?それでも、呼んでしまうんだ。♪
♪一度でいい、声を……声を届けてくれないだろうか?♪
♪僕の人生は、あなたなしじゃ動かない。♪)
画面に浮かぶ文字:『ぶちょー』
タイト(つぶやく)
「……やめてくれよ……。
なんでこういうときに限って……。」
(スマホの光に照らされた顔は、疲弊を通り越して“空っぽ”)
タイト(小さく吐くように)
「……俺の声なんか……
誰も……聞いてくれないくせに……。」
★7コマ目:祈りの崩壊
情景:
暗い部屋、ベッドに座り込むタイト。
手元に散らばったノートや石や本。
声が震えている。
タイト(弱く):
「神様……いるなら、教えてくれよ。
どうやって生きればいいんだよ。
(俯いたまましばらく沈黙。震える泣き声だけが聞こえる)
神様どうかもう
私を殺してください。
何をどう祈っていいのか、
自分の何を変えたらいいのかもわかりません。
苦しみから解放されたいのか、されるべきなのか、
どう判断していいのかもわからないんです。
どうか私を自由に使ってください。
もうなにをどうしたらいいのか、なにもわからないんです。」
――その瞬間。
電車の低音、
踏切の警報、
冷蔵庫のモーター音……
すべてが一気に消える
★8コマ目:音の断絶
情景:
外の線路、電車が走っていたのに、急に止まる。
赤い踏切灯も静止。
部屋の中は完全な静寂。
モノローグ:
……音が、消えた。
★9コマ目:眠りへ落ちる
情景: 暗闇の中でタイトが小さく眠る。
背景は静寂。
(画面全体が真っ黒に近く、中央に小さくタイト)
ナレーション(無声):
その夜、世界は初めて“音”を失った。
★10コマ目:神の声、数式の光
スマホの光が変質して、
e^{iπ}+1=0 が宙に浮かぶ。
最初はただの光の線。
だが、数式がゆらぐたびに――
・電車の騒音
・SNSの情報断片
・頭の中の思考の残響
それら“外側のノイズ”が
逆再生されて、静寂へ吸い込まれていく。
ナレーション:
「それは、
世界の雑音がほどけて、
静寂の底から浮かび上がった
一つの数式だった。」
★11コマ目:神の声(最初の接触)
情景: 光が数式からあふれ出して、
その中心に「声だけ」が生まれる。
声:
「おまえが見ている“現実”は、
おまえの“無意識”の数式だ。」
(タイトのまぶたがピクリと動く)
「……数式……?」
モノローグ(まどろみの中で)
だれ……?
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本作品および関連する世界観(反転構造・三毒の車輪・二枚の鏡・声の空間・
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※本記事はシリーズ連載の一部です。いかなる形式でも転載・引用・学習利用を禁止します。
※本作に登場する「空(くう)」は仏教の“空”とは異なり、
れんだいうてな思想体系における独自の意識OS構造(原初の空/完成された空)を指します。


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